2007年04月04日

サンジェルマン伯爵

昨日、ちょっとサンジェルマン伯爵のことを引き合いに出したところ、それはいったい誰ですか?というご質問を頂きました。
そもそも、お越しになる方が少なく、いらっしゃる方々も黙って立ち去ることの多い当店では、こうした素朴なご質問を頂き、とても喜んでおります。
つきましては、当カフェ・マスターたる私の、友人であるエルネスト大佐をお招きして、サンジェルマン伯爵なる人物についてお話いただこうと思います。

私ことカフェ・マスター(以下Mとします) : 「どうも、大佐(カーネル)、お久しぶりです。」

大佐(以下Cとします) : 「いや、しばらくぶりですな。あなたと会っていたのは、西の港町でのことでしたから、そうさね、7年ぶりだ。なんと、月日のたつのは早いこと。」

M : 「全くです。それはさておき、サンジェルマン伯爵について、お聞かせいただけませんか? 大佐は、オカルトのちょっとした権威と聞き及んでおりますが、、、」

C : 「いや、何、趣味でものの本を読みふけっているだけですよ。」

M : 「ご謙遜を」

C : 「サンジェルマン伯爵ですかな。サンジェルマン伯爵というのは、18世紀のフランス宮廷に現われた人物で、一説にはタイムトラベラー(時間旅行者)だと言われています。」

M : 「なんでも、1000年生きているとか」

C : 「いや、2000歳とか4000歳とも言われています。宴会などで、イエスキリストのこととか、クレオパトラのことなんかを、いかにも見てきたかのごとく話したそうです。」

M : 「いずれにせよ、ちょっと有り得ないことですね」

C : 「無論、当時から単なるペテン師だとも言われています。しかしですね、いろいろと不思議な逸話が伝えられているのですよ。」

M : 「ほう、といいますと」

C : 「確認できる最初の記録は、1710年。フランスの音楽家ラモーの日記によれば、当時50歳前後に見えたといいます。しかしその25年後、1735年にオランダのハーグに現れた彼は25歳前後に見えたと伝えられます。さらに、1750年にルイ15世と謁見した彼は40歳前後、1780年頃のルイ16世時代のヴェルサイユ宮殿に現われた時は50歳前後だったとか、、、。当時から、有名な人で、『不死の人』といわれていました。」

M : 「なんと!」

C : 「優雅で洗練された物腰、数カ国語に堪能、医学や科学の知識にも優れており、フランス宮廷でも一目置かれる存在でした。かのヴォルテールをして『すべてを知る男』と言わしめたといいます。また、ルイ15世の依頼で、王家の秘宝のダイヤモンドの内部にあったかすかな傷を完全に消したという話も残っています。」

M : 「たいへんな人物ですな」

C : 「ルイ15世以外にも、プロシアのフリードリヒ大王のお気に入りだったそうです。大王のスパイだったという説もあります。また、ロシアのエカテリーナ女帝のクーデター(エカテリーナ女帝が夫を追放して自ら皇帝になったんですが)、この宮廷クーデターの陰の立役者だったという話もあります。」

M : 「ますます、おどろきです。」

C : 「そして、マリーアントワネットに革命がおきることを警告したため、追放されたとか。
その後、ドイツのヘッセン・カッセルの宮廷に移り住んだようですが、最後に友人達が見ている前で、忽然と消えてしまったそうです。
しかも、最後にこういい残しています。『自分は、これから、しばらく旅に出ねばならない。まず、ロンドンとイスタンブールに向かうつもりだ。次の時代を準備するためにね。、、、季節は、ゆっくりと、しかし確実に移り行く。秋の実りのあとには厳しい冬がやってくる。だが、必ず春は訪れよう。そして、春は夏へと一気に駆け上がる、、、』。
最後の季節のたとえは、ロココの成熟した文化の次に、厳しい革命の冬の時代が続くが、やがて恐怖政治は終わり、ナポレオンの絶頂へと向かう歴史の流れを予言したものと考える人さえいます。」

M : 「、、、」

C : 「でも、まだ、話は終わっていない。いったんは、歴史の記録から消えうせたサンジェルマン伯爵ですが、その後も、目撃情報が絶えないんです。」

M : 「ほう!といいますと、伯爵は今でも生きている?!」

C : 「かも知れません。なにしろ、不死の人ですから」

つづく




サンジェルマン伯爵の肖像


つづき

M : 「さて、サンジェルマン伯爵についてエルネスト大佐から、お話しをして頂いたのですが、続けましょう。大佐、この世から突然消えうせたはずのサンジェルマン伯爵ですが、その後、どうなったのですか?」

C : 「はい、元々謎めいた人でしたが、彼が死んだあるいは消えたとされている年から数年後、フランスで彼の予言どおり革命が起こります。そして、アントワネットもギロチンにかけられるのですが、その姿を群衆に混じってサンジェルマン伯爵が遠巻きに見ていたとの目撃情報があります。さらに、」

M : 「さらに、、、」

C : 「その後も、19世紀を通して、ドイツのバーデンバーデンや、ロンドンなどで、サンジェルマン伯爵にあったという人が何人も出てきたのです。そして、まったくふけてなかったそうです。」

M : 「サンジェルマン伯爵は、1710~80年代に活躍したようですから、次の世紀を通して目撃されたり、会って話したり、しかも年をとっていないというのは、かなり異常なことですよね」

C : 「そうです。1780年代のヴェルサイユに出没したときは50歳くらいだったのですから、19世紀の半ばには、控えめに見積もっても、120歳。1890年代に現われたときには、160歳くらいになっていることになりますよ。」

M : 「ちょっと有り得ない話しですね」

C : 「さらに、こんな話しもあります。皇帝ナポレオンが没落する直前といいますから、1810年から1814年くらいのことだと思われますが、チュイルリー宮殿で、ナポレオンは謎の赤い服の男に面会したと言われています。」

M : 「赤い服の男?」

C : 「昔は、パリのルーブル宮殿に向かい合う形でチュイルリー宮殿という王宮があり、代々の君主の居城でした。チュイルリーの赤い服の男というのは一種の都市伝説ならぬ宮廷伝説で、フランスに変事が起きるときに現われては、宮殿の主である君主に危険を告げ知らせるといわれているのです。そして、ナポレオンが面会したという赤い服の男は、サンジェルマン伯爵であったとする根強い説があるのです。」

M : 「うーん、本当でしょうか?」

C : 「本当かウソか、伯爵の目撃情報はその後も続きます。20世紀にはいってからも、複数の証言があるのです。さらに、1930年代から2次大戦中にかけて、ナチス・ドイツは、本気になってサンジェルマン伯爵を探していたとも言われているのです。」

M : 「えっ、あのヒトラーのナチスがですか?!」

C : 「ナチは、知る人ぞ知るオカルト集団ですから。ヒトラーやゲッペルズ、ヘスといった幹部達が占星術に凝っていたのは有名な話です。また、ナチ党には北欧神話を本気で研究する専門セクションがありました。さらに、ナチは、ヒマラヤの奥地にシャンバラという謎の都市を探すための探検隊を派遣したり、北極で地球空洞説を証明するための特殊実験をやったり、失われたアークも本当に探していたようです。ちなみにナチは、アークの隠し場所は映画「レイダーズ」のようにエジプトではなく、南フランスに隠されていると考えていたようです。ナチ占領下のフランスで徹底的な捜索がなされ、発見され、ベルリンに輸送されたという説さえあります。いろいろ、面白い話があるのですが、これはまた後日にしましょう。

サンジェルマン伯爵にもどりますが、伯爵は、ポルトガル生まれのユダヤ人との説があります。ユダヤ人ということでぴんときたかもしれませんが、ナチのユダヤ人迫害、強制立ち退き、一斉捜索と絶滅収容所への隔離には、もしかしたら、サンジェルマン伯爵を探す目的があったのかもしれません。もちろん、それは付随的な目的でしょうけれど」

M : 「いや、驚くべきことが次々と、、、」

C : 「また、1930年代のことですが、核物理学者のエンリコ・フェルミが、核開発につながるある重大な発見をした直後、不思議な人物の訪問を受けました。ふいに現われたその人物は、自分を中世の錬金術師フルカネルリであると名乗ったそうです。そして、核物理学がどれほど強力な、しかしきわめて危険な力を人類にもたらすかについて語り、警告したのだそうです。このフルカネルリですが、フェルミが真正面から見ていると普通だったそうですが、横向きの姿は半透明だったそうです。そして、フルカネルリもサンジェルマン伯爵と同一人物だという人がいます。」

C : 「また、1970年代にリヴィエラで会ったという情報など、その後も、伯爵についての目撃情報は後を絶ちません。」

M : 「なんとも信じられない話ですね」

C : 「いずれにせよ、非常に博識で、とてつもないほどの知識の持ち主だったそうです。錬金術にも通じており、かのカリオストロに秘技を伝授したとか。」

M : 「フランス革命の直前期には、カリオストロをはじめ怪しい人たちが少なくありませんね。」

C : 「そうですね。一種文化の爛熟期だったのですね。色事師のカサノヴァや、動物磁気による治療をおこなったメスメルなんかも、ちょうど同時期に活躍しています。メスメルについては、20世紀後半になってから再評価がすすみ、単なるペテン師だとされていたものが、催眠による心理療法の走りだったとして、非常に注目されるようになりました。」

M : 「カリオストロといえば、ルパンにも出てきますが、サンジェルマン伯爵は、カリオストロと同時代人だったのですね!」

C : 「カリオストロは、ただのデブの山師以外の何者でもないでしょう。カサノヴァをふくめ、ただの金ぴか成金ペテン師がほとんどだった18世紀末の宮廷社交界において、サンジェルマン伯爵は、むしろ地味で、最後までミステリアスです。いくつもの偽あるいは粉飾事例の中で、唯一本物のオカルティストといえるでしょう。」

M : 「本当にそうですね、豪勢な宮廷料理を前にして、カラスムギと丸薬だけを食べていたという点なんか、実にストイックでいいじゃないですか。おそらく、イメージ戦略の一環としての演出だったと思われますが、すきっ腹を抱えながらも、自分のイメージを保たせようとする姿は、ちょっと涙ぐましいものがあります。」

C : 「全く同感です。だから、死後も長く人々の関心をひきつけてきたといえます。文学作品にもとりあげられてきました。先ほどの赤い服の男については、ハイネが誌の中でうたっています。また、プーシキンの「スペードの女王」では、トランプの秘密を最初に人に教えるのは、サンジェルマン伯爵であると、はっきり言及されています。
 今後も、おそらく、サンジェルマン伯爵という人物は、ひきつづき人々の関心をよび続けることでしょう。」

M : 「大佐、どうもありがとうございました。」


おわり  

Posted by らいおんまる at 00:33Comments(7)TrackBack(0)mystery